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よみかさん
よみか
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東欧に生きる人々の拠り所-これが精一杯でした。
ドナウ源流から黒海まで、雇い主の依頼によってドナウを下る旅に出た旅人。中央から東ヨーロッパを流れるドナウに沿って、おじとの思い出、沿岸や流域の町についての歴史、ゆかりの小説や詩歌、著者が生きてきた当時の東欧の社会情勢をからめながら、時空を思うまま往き来して綴られるドナウの旅。

ここに『利根川』というタイトルの本があるとします。その源流上越国境から関東平野を流れ千葉県銚子で太平洋に注ぐに至る300キロを超えるこの川の沿岸にゆかりの歴史や人物-例えば川端康成の『雪国』に始まって、講談でおなじみの塩原太助とか、渋沢栄一の「論語とソロバン」、天保水滸伝の平手造酒、果ては銚子醤油の創始者浜口儀兵衛というように-書き手の想像力のままに綴られた作品があったとして、日本に一度も来たことが無く、おおよそこの国のことを知らない遠くハンガリーに住むハンガリー人の一般主婦がこれを読んだとしたらどういう感想になるのでしょうか。

知識不足の読み手の能力の限界ということはもちろん否定しないのですが、エステルハージ家というハンガリーの名門大貴族の末裔で共産主義の治世から東西冷戦の終結という激動の東欧を生きた著者ならではのこの作品世界は、その背景を知らぬ以上ただ黙って向き合うより仕方がありませんでした。

「東欧のことは東欧の人間にしかわからない。東欧人であることは、自分自身がわからないということ」だと著者は言います。負け惜しみではありませんが、だとすれば本書は極東の一主婦に理解してもらおうと書かれたものなどではなく、自分とは何か、著者が自分自身に問うつもりで書かれたものであるようにも思えます。

長い間歴史の大きな波をかぶり続けた東ヨーロッパ、ここに国という概念さえ確たるものではない場所に生きてきた人を思います。この土地柄にあっては、自分とは何かを考えるときに唯一その拠り所なるのが「ドナウ」なのかもしれません。なぜなら、沿岸に生きる人の営みがどのように変化しようともその流れは決して変わることが無いのでしょうから。

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よみか
よみか さん本が好き!1級(書評数:642 件)

ここのところ踊りに現を抜かして、本が読めておりません。(^_^;)
にもかかわらず、時折、過去レビューをお読みくださりポチッと一票くださる方々がいらして、感謝いたしております。
ありがとうございます。

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『ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし―ドナウを下って (東欧の想像力 3)』のカテゴリ

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